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札幌地方裁判所 昭和42年(行ウ)10号 判決

札幌市豊平七条七丁目七〇番地

原告

岡田利夫

右訴訟代理人弁護士

山本隼雄

被告

札幌東税務署長

右指定代理人

長尾勝美

高田金四郎

武田博

芳村信雄

右当事者間の課税処分取消等請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

Ⅰ  原告

一、被告が原告に対し、昭和四〇年八月二七日付をもつてした更正処分のうち課税総所得金額二、八四三、三〇〇円、所得税額金七八五、三二〇円、過少申告加算税額金二一、四五〇円を超える部分(札幌国税局長の昭和四一年七月一二日付裁判により取消された部分を除く。)を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

Ⅱ  被告

主文と同旨の判決。

第二、当事者の主張

Ⅰ  原告

一(一)  原告は木材業を営むものであるが、昭和三九年三月一六日被告に対し、昭和三八年度所得税に関し、同年度中の原告の営業所得は金一、四八八、二八四円の損失であり、課税総所得金額は零である旨の申告をした。これに対し被告は昭和四〇年八月二七日付で、原告の営業所得は金六、七八二、九九〇円の利益があり、課税総所得金額は金八、二四四、九〇〇円であるとの更正処分をし、これに基づき所得税金三、二七〇、四五〇円、過少申告加算税金一五八、七五〇円がそれぞれ賦課された。

(二)  そこで原告は被告に対し異議の申立をしたところ、被告は昭和四一年二月八日営業所得を金六、五四一、〇八三円、課税総所得金額を金八、〇〇三、〇〇〇円と減額決定をし、その結果所得税金三、一四九、五〇〇円、過少申告加算税金一五二、七〇〇円となつた。

(三)  原告はさらに札幌国税局長に対し審査請求をし、その結果同局長は昭和四一年七月一二日付で営業所得を金三、〇九七、七八一円、課税総所得金額を金四、五五九、七〇〇円とする旨の裁決をした。そのため課税総所得金額に対する税額は金一、四九九、八六五円となつたが、右税額から配当控除をすると所得税額は金一、四〇五、二二三円となり、さらに原告は源泉徴収税額金二六一、〇六一円および予定納税額第一、第二期分として合計金二九八、五二〇円を納付済であつたので、納付すべき所得税額は金八四五、六四〇円、過少申告加算税は金七〇、二五〇円となつた。

二、しかしながら、原告の同年度の営業所得は、原告の記入もれ、違算等を訂正、付加しても金二、八四三、二六〇円を超えない。営業所得を右原告主張の額以上に認定した原処分は、被告がスプルース(アラスカ材)の期末在庫高の評価を誤つたもので違法である。すなわち、原告は当初被告に対し、右スプルースの期末在庫高を売価還元法により金一〇、八一八、三三五円と申告したところ、被告はその更正処分において仕入原価法によりこれを金一五、一六六、八六八円と更正した。これは、前記裁決によつて売価還元法により金一二、五三四、七七五円と減額されたが、右スプルースの期末在庫高は原告主張の額が正当な金額であるから、それを基礎とすれば、課税総所得金額は金二、八四三、三〇〇円となり、これに対する所得税額は金七八五、三二〇円となり、過少申告加算税は金二一、四五〇円となるので、裁決による賦課税額のうち、右原告主張の額を超える限度において原処分は違法であるのでその取消を求める。

三(一)  被告の主張二(一)記載の事実は認める。

(二)  同(二)の冒頭の事実は認めるが、1ないし3の評価方法については争う。すなわち、

同1にいう年末在庫量のうち二〇パーセントが建具材、その余の八〇パーセントが不良材であるとの原告の説明は、建具材として利用できるがその品質が最低のものが二〇パーセント、建具材には利用できず、建築材としてしか利用できないものが八〇パーセントであるとの趣旨であつた。このように品質が劣るものが残存したのは、北海道内においてスプルースを扱つたのは原告が昭和三八年に販売したのが最初であつたため、当初はその販路開拓のために上質材のみを販売したためである。

また同2によれば、建具向上質材の割合について建具用一、二等材を各五〇パーセント宛と認定しているが、これは仕入時の品質表示であるA材、B材、C材の区分と原告が販売のために設けた建具用一、二、三等材という品質表示との相違を無視している。また不良材八〇パーセントの品質を建具用三等材と評価したのも右と同様の誤りがあるほか、建築材としてしか利用できないものの在庫を認めておらず、かつ建築材として販売する場合でも、製材する必要から、その歩どまりが八割前後であることも看過している。

更に同3においては、不良材八〇パーセントの価格につき建具用三等材の価格を適用していることは前述のとおり誤りであるが、更に建築材の価格が一石当り金四、五〇〇円であるとの原告の説明を援用している点は次の理由で不当である。すなわち、原告が説明した価格は製材前の粗材ではなく、製材したものの価格であり、製材価格金四、五〇〇円のものの粗材価格は、製材の歩どまりが通常八〇ないし八五パーセントであり、加工費として一石当り金七〇〇円を要することからすると、金二、九〇〇円ないし金三、一二五円となる。従つて、建築材としての被告の評価も不当である。

また原告は、昭和三九年になりスプルースの取扱いに重点を移した結果、営業収支は金二二、六七八、八二五円の欠損を生じた。

(三)  以上のとおり被告のした本件更正処分は、スプルースのたな卸評価を誤つた違法がある。

Ⅱ  被告

一、原告の主張事実中、一の(一)ないし(三)記載の各事実は認め、同二記載の事実中、原告が主張のような申告をし、被告および札幌国税局長がそれぞれ原告主張のような更正処分、裁決をしたことは認め、その余は争う。

二、主張

(一) 原告は、昭和三八年に初めてスプルース五、二二〇石三〇を代金合計金二六、三一三、四二七円で仕入れ(その品質割合はA材三〇パーセント、B材四〇パーセント、C材三〇パーセントであつた)、仕入経費は金一、〇五四、三三七円であつたので、期中仕入高は合計金二七、三一三、四二七円である。原告は同年中に二、三四〇石四〇を販売し、その売上高は金一七、三七一、四一三円であり、同年末在庫高は二、八七九石九〇であつた。

(二) 原告は、右スプルースにつき品質、等級別出納簿等の記帳をしておらず、また年末に実地たな卸を行なつていなかつたので、その品質、等級別の在庫の区分は明らかでなく、推計により評価したものである。

1 審査請求時において、原告は右年末在庫量のうち二〇パーセントが建具向上質材、その余の八〇パーセントは不良材であると説明した。

原告の主張する上質材の残存割合は、その割合がやや過少とはいえおおむね是認しうるものと認められたので、右原告の主張を採用し、残存割合は建具向上質材二〇パーセント、その他不良材八〇パーセントを基礎とした。

2 そこで被告は、右建具向上質材二〇パーセントの内訳は、原告の仕入れ時の品質割合等を勘案して建具用一、二等材が各五〇パーセント宛であると認定した。

またその余の不良材については、右不良材とは、一般的な意味における不良品を意味するものではなく、右建具向上質材以外の建築材および非上質材としての建具材(三等材)を包含していたが、原告は昭和三八年中には、スプルースを建具材としてのみ販売していたので、右その余の不良材のうち建築材と建具材の割合は不明であるが、同年中には建具材としてのみ販売されたこと、また建築材といえども製材することにより建具材として販売しうること(実際に原告は、翌三九年に自ら製材して、建具材として販売している。)を考慮して、すべて建具用三等材と評価した。

従つて、年末在庫数量のうち一、二等材はそれぞれ二八七石九九、三等材は二、三〇三石九二の割合であつた。

3 ところで原告が審査請求に際し提出したところのスプルース地区別価格表によつて算出した札幔工場渡し単価の平均価額は、一石当り一等材が金七、五三四円、二等材が金六、二八二円、三等材が金四、六四六円であつた。前記三等材には建築材が含まれていることは前述のとおりであるが、原告は審査請求に際し、建築材としての販売価格は一二尺もので一石当り約金四、五〇〇円である旨説明しており、この価格は前記三等材の販売予定価格とほぼ同額であるから、被告が認定した品質、等級別販売予定単価および同予定価格は正当である。

三、ところで原告は、たな卸資産の評価方法については、なんら届出をしていなかつたので、そのたな卸資産は売価還元法により評価することとなる(旧所得税法第一〇条の二(昭和四〇年法律三三号による改正前の規定)、同法施行規則第一二条の一一)。

そこで被告が認定した前記数値を基礎として売価還元法によりスプルースの昭和三八年の年末在庫量の評価額を算出すれば、金一二、五三四、七七五円となり、従つて被告のした処分は、後に裁決により減額された限度において正当であり違法はない。

第三証拠

Ⅰ  原告

甲第一、第二号証を提出し、証人山本国夫の証言および原告本人尋問の結果を援用した。

乙第八号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

Ⅱ  被告

乙第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証、第五号証の一ないし三、第六ないし第九号証、第一〇号証の一ないし四を提出し、証人小畑惣次の証言を援用した。

甲第一号証の成立は不知、甲第二号証の成立は認める。

理由

一、原告主張事実のうち一の(一)ないし(三)記載の各事実は当事者間に争いがない。弁論の全趣旨によれば、原告は、本件処分のうち昭和三八年一二月三一日現在のスプルースの年末在庫量の評価のみを争い、その余の同年中の課税の根拠については明らかに争わないところであるから、以下右スプルースの同年末の在庫量の評価額について判断する。ところで、原告が右スプルースの品質、等級別出納簿等の記帳をしておらず昭和三八年一二月末日現在の実地たな卸を行なつていなかつたことは当事者間に争いがないから、右評価額を推計により算出することはやむをえないところであり、従つて被告のした推計が合理的なものとして是認しうるものであるか否かが問題となる。

二、被告の主張(一)記載の事実は当事者間に争いがない。

そこで昭和三八年一二月三一日現在におけるスプルースの在庫量二、八七九石九〇の品等別割合についてみるに、弁論の全趣旨によれば、右在庫量のうち少なくとも二〇パーセントは他の八〇パーセントに較べて良質のものであつたことが認められる。また証人山本国雄の証言および原告本人尋問の結果の一部(後記信用しない部分を除く。)を総合すると、原告の仕入れ時における品質を表示したA材、B材、C材の品質表示は公式の表示ではなく、スプルースの生産地であるアラスカにおける商慣習による表示であつて、個々的にみるとA材より良質のB材、C材もあつたが、全般的にみればC材よりB材、B材よりA材が良質であること、これを原告がスプルースを販売するために設定した建具材の規格にあてはめるとA材は一等材に、B材は二等材に、C材は三等材に該当するものが多いこと、および昭和三八年に仕入れたスプルースの中では右建具用一等材が最も多く、二等材、三等材の順に量が少なかつたこと、原告は昭和三八年には建具材としても良質のものを主に販売し、その品質はA材、B材が多かつたこと、また証人小畑惣次の証言と原告本人尋問の結果の一部によれば、審査請求時において原告は、国税局協議団の担当協議官である小畑惣次に対し、残存していた右良質材二〇パーセントの品質割合はA材、B材が各半分位ずつであつたと説明していたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果の一部は、その供述が転々と変化しているばかりでなく、何ら確実な根拠に基づいているものではないので直ちに借信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

右に認定した事実を総合すれば、右年末在庫のうち二〇パーセントは建具材としての良質材であり、その品等割合は一、二等材が各五〇パーセント宛であつたと認めるのが相当である。そして右一、二等材の販売予定価格は、弁論の全趣旨によれば原告のスプルースの販売先は札幌市が主体であることおよび成立に争いのない乙第五号証の三(スプルース地区別価格表)によれば昭和三八年における札幌市での販売価格が他の地域におけるそれより最も低額であることが認められるので、原告に有利な右札幌地区における価格によることは相当であり、右乙第五号証の三によれば、同地区の販売価格は、一、二等材ともその長さによつてそれぞれ六段階に区分されて定められているが、右二〇パーセントのうちの一、二等材の長さ別の割合を認めるに足る証拠は全くないので、それぞれの平均価格をもつて、右一、二等の販売予定価格と認めるほかはなく、右乙第五号証の三によつて計算すれば一等材の平均価格は一石当り金七、五三四円、二等材は一石当り金六、二八二円となる。もつとも成立に争いのない乙第五号証の二のうちのたな卸評価説明書において、原告は東京におけるスプルースの価格を引用して原告の仕入れたスプルースの販売価格を説明しているが、弁論の全趣旨によれば、昭和三八年に原告が販売したスプルースは、原告が作成した前記スプルース地区別価格表(乙第五号証の三)により販売したものと認められるから、右乙第五号証の二は採用することができず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

次にその余の八〇パーセントの部分の品等および価格について検討する。

弁論の全趣旨によれば、右八〇パーセントの大部分が前記C材によつて構成されていることが認められ、またC材には建具用三等材が多く含まれていたことは前認定のとおりである。そして前掲乙第五号証の三によれば、昭和三八年における建具用三等材の札幌地区における価格は一石当り金四、六四六円であつたことが認められる。他方証人小畑惣次の証言によれば、右八〇パーセントの中には、建築材も一部含まれていたことが認められるので、右八〇パーセントの全体について販売予定価格を右建具用三等材の価格としたことが合理的であつたかについて考えるに、原告本人尋問の結果の一部によれば、原告は、建具用三等材より品質の劣り、建具用材の販売価格表(乙第五号証の三)においては、枠外としている同四等材(原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第一号証参照)について、昭和三八年には同材の長さを切り詰めて二等材もしくは三等材として販売したこともあること、および成立に争いのない乙第一〇号証の一によれば、昭和三九年に原告が販売した建築用製材の平均価格は一石当り金六、〇七〇円であることが認められ、右販売価格から原告の主張による一石当りの製材加工費金七〇〇円を控除し、かつ製材の歩どまり率は、成立に争いのない乙第一〇号証の二ないし四によれば、昭和三九年における製材に加工した粗材石数と製材出来高石数を対比すると八八パーセントであることが認められるので、これから右建築用粗材の単価を計算すると一石当り金四、七二六円となること、また前掲乙第一〇号証の三によれば、昭和三九年に粗材のまま販売したスプルースの価格は、一部(札幌木工センターへの小口売り)がやや低価であるほかは、最も低価のもので一石当り金四、八〇〇円(東洋木材工業に対する販売)であることが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上の事実を総合すると、前記建築材の部分の販売予定価格について建具用三等材の販売価格をもつて評価することも許されるというべきである。

ところで原告本人尋問の結果の一部には、右八〇パーセントの大部分は建築材としてしか利用できない品質のもので、建築材としての品等もいわゆる役物よりも品質の劣る、農林規格にいう一、二等材にしか製材できないものであり、また昭和三九年における建築材の平均販売価格は役物を製材したために高額になつた旨供述する部分も存するが、これらの原告の供述は、いずれも確実な資料に基づいたものではなく信用することができない。

また前記乙第一〇証号の四によれば、昭和三九年一二月二五日現在在庫していたところの、スプルースから製材した建築材の価格は一石当り約金四、七七二円であり、前記と同様の製材加工費、歩どまり率により粗材価格を算出すると一石当り約金三、五七一円となるが、成立に争いのない乙第九号証および前掲証人山本の証言によれば、乙第一〇号証の四に記載されている価格は、原告にスプルースを販売した訴外三菱商事株式会社が、原告を援助するために同年暮に原告から買上げるための価格であつて、いわゆる市場価格ではないことが認められるので、右乙第一〇号の四も前認定を妨げるに足りず、他に前認定を覆えすに足る証拠はない。

更に原告は、昭和三九年にはスプルースの取扱いに重点を移した結果営業収支が金二二、六七八、八二五円の欠損を生じた旨主張し、原告本人尋問の結果の一部にもその旨の供述が存するが、右供述は原告自身が昭和三九年分所得税青色申告決算書(前掲乙第九号証)において説明するところの欠損を生じた理由とも異なるので採用し難く、他に右事実を認めるに足る証拠はない。

三、前記二の冒頭の当事者間に争いのない事実に、右認定の昭和三八年一二月三一日現在におけるスプルースの在庫量の品等割合およびその販売予定価格を基礎として、売価還元法により右昭和三八年末におけるスプルースの在庫高を評価すれば、合計金一二、五三四、七七五円となり、原告の審査請求に対する裁決におけるその評価額は正当として是認しうる。

そうだとすれば、他の課税根拠については争いがないので、被告が昭和四〇年八月二七日付をもつてした更正処分は、同四一年七月一二日付で札幌国税局長がした裁決により減額された限度で正当であるから、原告の本訴請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松原直幹 裁判官 吉原耕平 裁判官浜崎恭生は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松原直幹)

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